かつて “ 王 ” がいた。
神に選ばれたのではない。
ただ、神の骸に、自らの手で触れた者だった。
王とは、声なき神の意志を “ かたち ” に変える器。
だがその代償として、王は名を奪われ、顔を失い、抱いていた夢さえ喰われた。
意志は空洞となり、語る言葉でさえ、もはや誰のものでもなかった。
それが、この世界の始まりだった。
やがて――虚王の時代が訪れる。
神骸に魅入られ、あるいは呑まれ “ 王 ” は己自身を捨て “ 呪い ” そのものと化した。
この世界に残されたのは、命の残響と、裂けた空だけ。
誰もが王を求め、誰もが王を恐れ、誰もが王を名乗った。
だが今、風の中にただ一振りの剣が静かに揺れている。
――《歪刃イーデル》。
虚王が遺した咎を、リヴァの意志の力でねじ曲げた剣。
王となることを拒み、世界に選ばれることすら否定した青年が、自らの答えとして掲げたもの。
「……選ぶのは、俺だ。 もう、誰にも決めさせない。」
あの日――焦熱の門をくぐり抜けたリヴァは、何も変わってなどいなかった。
変わったのは、世界のほうだった。
咎の烙印は、今も彼の腕に燃えている。
だがそれは、もはや呪いではない。
リヴァが選び、受け止め、そして己の剣へと変えたものだ。
王なき魔界において、誰よりも王に近く、誰よりも王を拒んだ男。
その名を、人々はまだ知らない。
――だが、まもなく世界は知るだろう。
リヴァという名の “ 意志 ” のかたちを。
そして神骸は、なおも眠り続けている。
次にその手に触れる者が誰なのかを――静かに、じっと、待ちながら。
