刹那――世界が凍りついた。
空に穿たれた裂け目は、光と闇がせめぎ合う混沌の渦となり、そこからあふれ出た “ もうひとりのリヴァ ” が、ゆっくりと地に降り立つ。
虚空のざわめきは消え、時間の鼓動すら遠のいていた。
その前に立つリヴァ。
二人の間に魔力の衝突はない。
だが、空気は極限まで張り詰めていた。
まるで宇宙が息をひそめ、ふたりの対峙を見守っているかのようだった。
「……お前が、俺なら……俺は、お前に何を言えばいい?」
リヴァの声が静かに宙を裂く。
問いかけに、目の前の “ 彼 ” は、微かな気配だけを漂わせて応えた。
「何も言うな。俺は、お前が否定した道の果てにいる。選ばれなかった――だが、確かに在った“もうひとつの俺”だ」
その声は低く、けれど確かな存在感を帯びていた。
闇の深奥から引き上げられた幻影ではない。
これは確かに “ あった ” 未来のひとつ。
消えゆくにはあまりに鮮明な、意志の残滓だった。
リヴァの瞳がわずかに揺れる。
けれど、彼は一歩、また一歩と歩み寄る。
剣も魔法も用いず、ただ “ 受け入れる ” ために。
その歩みは、運命という名の激流を遡るようでもあった。
「消すことも、拒むことも、もうしない。俺は――お前を背負って進む。そうでなきゃ “ 未来 ” なんて語れない」
その瞬間、リヴァの胸に宿る “ 流れ ” が静かに共鳴を始めた。
光と闇、過去と未来、捨て去られた可能性と今この瞬間の現実――
すべてが一つの道筋に繋がっていく。
その脈動は、大地を、風を、星々を揺らし、かすかに世界の輪郭を塗り替えていく。
「統合とは、否定じゃない。越えることだ」
リヴァの言葉が風に乗ると同時に、もうひとりのリヴァの姿は、淡い光の粒子へと変わっていった。
微笑みを浮かべながら、静かに溶けていくその姿に、痛みと覚悟がにじむ。
それは、別れではなく、融合だった。
断絶ではなく、連なりだった。
光の粒が宙を舞い、空の裂け目もゆっくりと閉じていく。
まるで、世界そのものがひとつの答えに収束していくかのようだった。
夜空には、ひときわ強く星が瞬き始める。
星座たちの配置が、どこか違って見えた。
まるで新たな法則が編み直されたかのように。
「……終わったのか?」
ヴォルグが低く問う。
だが、リヴァの答えは力強かった。
「いいや。始まったんだ」
その声音には、もはや迷いはない。
まっすぐに未来を見据える、確かな意志があった。
彼のまなざしは、遥かなる “ 時の岐路 ” を越えていた。
静寂が戻った丘の上で、ネイラがそっと歩み寄る。
「選んだの?」
リヴァはわずかに微笑み、首を振った。
「いや。選ばずに、抱えることを決めた。 俺は “ どちらかを消す ” ような器じゃない。 でも “ どちらも抱えて立つ ”ことなら――できると思った」
彼はゆっくりと夜空を仰ぐ。
漆黒の天幕に、幾千の星が瞬いていた。
それはまるで、再構築される世界の設計図が、空に描かれているようだった。
かつて閉ざされていた天が、ようやく“答え”を受け入れたように。
「さあ――鍵を探しに行こう。 答えを携えて、未来を開くために」
その足取りには、もはや揺らぎはなかった。
そして五人は再び歩き出す。
世界の理に抗い “ 災い ” すら超えて――
新たな章が、今、静かに幕を上げる。
