焼け焦げた空を切り裂くように、幾重もの布が風に舞っていた。
それは、かつて滅びた国々の旗――。
流された血と、散った名の誇りをその身に染め、滅びの名残を裂いて織り上げた布。
“ 王なき魔界 ” において、なおも自由と矜持を掲げ続ける者たちの象徴だった。
ここは《解放区》。
流民たちが寄り集い、いかなる軍門にも下ることなく、ただ生き抜くことを選んだ者たちの砦。
魔界の秩序を拒みし者たちの、最後の憩いにして、最前線。
そして、その風の中心に立つ者こそ――
魔界四傑のひとり《反旗のカーヴァ》であった。
「聞け、民よ! この旗は命令じゃない、誓いだ。 奪われた名も、焼かれた家も、忘れるな―― だが、恐れるな。お前らの足は、まだ動く。声は、まだ届く。 ならば胸を張れ。この風が止まらぬ限り、俺たちは自由だ!」
弓を携え、束縛を嫌い、旗一つで幾千の魂を導く、風そのものの男。
魔界一の弓師とも言われた。
だが、虚王が墜ちたその日、彼は誰よりも早く、自由の旗を掲げた。
誰にも従わず、誰にも支配させず、ただ「自由」の名のもとに戦い続ける。
その旗は、時に希望となり、時に鋭い矢となって、多くを射抜いた。
「我々は風の如し!ただ……その自由を奪いに来るってなら、いつでも迎えてやるさ。」
そう言い放つ彼の声は、風と同じく軽やかで、そして止まることがない。
リヴァが《解放区》を訪れたのは、一つの報せを受けたからだった。
――「カーヴァが、他の勢力との全面戦争に備え、兵を集め始めている」と。
虚王崩御より幾年。
魔界には新たな “ 王 ” を求める声が渦巻き始めていた。
火を統べる猛将。死を紡ぐ巫女。大地に神を祀る教祖。
それぞれが “ 正義 ” を掲げ、己が力を誇示し続ける中、ただ一人、カーヴァだけが「王」と名乗らず、旗を掲げ続けた。
だが、その旗さえも、新たな戦火を招く兆しとなるなら――
争いを終わらせるために歩む者にとって、最初に向き合うべきは、まさにこの男だった。
「自由のために戦う者」は、果たして “ 止めるべき戦 ” を望んでいるのか。
それとも “ 望む自由 ” のために、なお矢を放つのか。
リヴァは《歪刃イーデル》を背に、風と砂に削られた大地へと歩み出す。
彼の背後には、瓦礫と焦土が広がり、その先に無数の旗が、風を受けてはためいていた。
まるで、彼の “ 意志 ” を試すかのように――。
